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生徒会オールメンバーで運動会イベントのお話、くす玉割り編。

* * * * *




く  す  玉  割  り





生徒達の歓声が響く中、少女は一人、くす玉の吊されたポールから遠く離れた場所で深いため息をついた。
的をそれて転がってきた布製の玉を気怠げに拾い上ると、片手に持った籠に入れる・・・その繰り返し。
秋風に乱れる髪を手で押さえながら、少女は活発に動き回る同級生を見詰めて切なげに目を細める。
今にも倒れ伏しそうに儚げな憂い顔、その唇から漏れる小さな呟きは――――


「あー、ばっかばかしい・・・!」


カレンは低く悪態をついて、籠の中にまた一つ玉を放り込んだ。
「なにが悲しくて玉拾いなんかしなきゃならないのよ・・・しかも高校生にもなって『くす玉割り』だなんて!」
周囲に人がいないのをいいことに、カレンはぶつぶつと呟きながら転がっている白い玉をつまみ上げる。
(このご時世におめでたいっていうか、平和だというか・・・)
『黒の騎士団』の活動が一段落し、久々に学校に来てみれば机の中に入っていたのは『大運動会のお知らせ』というわけだ。
これだからブリタニアは、と口癖になりつつある台詞をぼやいたところで、背後から聞き慣れた声が響いた。
振り向けば、手を振りながらシャーリーが駆け寄って来る。
「カレン、大丈夫?体はつらくない?調子が悪くなったら、いつでも休んでいいんだからね」
面倒見のよいシャーリーは、首にいくつものストップウォッチをぶらさげたまま、心配そうにカレンの顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ、これくらい。落ちている玉を集めるくらい、私にもできるわ」
「そう、よかった。カレン、退院したばかりでしょう・・・無理はしないでね!」
「・・・ありがとう、シャーリー」
邪気のない笑顔にカレンも素直な微笑みを返す。
もちろん『入院』とは名ばかりで、『黒の騎士団』の活動のために適当な欠席の理由をつけたものだ。
シャーリーに申し訳ない気がしたが、やはり自分の信念は曲げられない。
(だって、私はゼロについていくって決めたんだもの・・・ゼロは、私が・・・!)
「ちょっと・・・カレン、ホントに大丈夫?」
「あ、ええ・・・大丈夫よ、もちろん」
不安そうに眉を寄せるシャーリーに向かって慌てて笑顔を浮かべた時、今度はトラックの方から呼び掛ける声があった。
「おーい二人とも!」
見れば枢木スザクが競技用のポールを山のように担いで近づいてくる。
「どうしたの・・・ひょっとして具合悪いとか?」
「ううん、平気よ、スザク。心配しないで」
「本当?調子が悪ければ、医務室まで背負っていくから」
にっこりと微笑んだスザクに笑顔を返しつつ、カレンはその瞳を値踏みするように細めた。
枢木スザク、生徒会風紀委員。真面目で優しくて、顔もわりと良くて背も高いし、スポーツは大の得意。
普通の女の子だったら、この笑顔に思いっきりふらつくところだ・・・が、しかし。
カレンは密かに籠を持つ手をぎりぎりと強める。
(・・・こいつ、『名誉ブリタニア人』で、しかも『ブリタニア軍人』だし!)
日本人の、それも『最後の侍』と言われた枢木首相の息子のくせに、自らブリタニアに組みするなんて・・・。
プライドってもんがないのかしら、と心の中で毒づいたカレンに、スザクが続ける。
「これを向こうに置いてきたら僕も一緒に・・・」
「おまえはこの後100メートル走のスターターをやるんだろう、手伝う暇があるのか?」
スザクの声に覆い被さるように、鋭い言葉が投げられた。
(この声は――――)
「あ、ルルーシュ、」
「それに、カレンも少し体を動かさないと却って良くないだろう?」
いつの間にか現れたルルーシュは手にしたライン引きに軽く体重をかけて、取り澄ました笑顔を浮かべている。
「もちろん、気分が悪くなれば俺が持ち場を代わるが・・・気分が悪くなれば、な」
微妙なニュアンスが感じられる言葉に、カレンは微笑みを顔に貼り付けて振り向いた。
「ありがとう、ルルーシュ。でも私の事は気にしないで」
「そうかい、なんたってカレンは病弱・・・だもんな、万が一倒れでもしたら大変だ」
「嬉しいわ、私のこと、そんなに心配してもらえるなんて」
「当然だろう、俺たちは仲間、なんだから」
ほとんど棒読みのカレンに対し、しゃあしゃあとした顔でルルーシュが答える。
脇のスザクが目をキラキラさせながら、芝居じみた台詞に大きく頷いた。
シャーリーはといえば、そわそわしながら見つめ合う二人の様子を窺っている。
カレンの手の中で、ボールの入った籠がみしみしと嫌な音をたてた。
バスルームでの一件以来、カレンに対するルルーシュの言動には、他人には気付かれない棘がたびたび含まれている。
(なんだかシャーリーは誤解してるみたいだけど・・・)
正直言って、ルルーシュ・ランペルージは好きどころか、嫌いなタイプだ。
理論武装して体制に批判めいた事を言ってみせるくせに、実際には何もできない臆病者・・・。
ちらりと目を向けると、ルルーシュは上から目線でカレンを見遣り、鼻で笑ってみせた。
(・・・ほんっと、ゼロとは大違い!)
思わず拳を震わせたカレンの隣で、スザクが競技用のポールを肩に担ぎ直す。
「そろそろ僕、次の種目の準備に行ってくるよ。じゃあカレン、手が空いたら手伝うね!」
軽やかに走り去ったスザクを見送って、シャーリーが感心したように呟いた。
「あのポールって一本で5キロはあるって聞いたけど、あんなに抱えて・・・すごいわね、スザクくん」
「・・・あの体力馬鹿が」
「あっ、ちょっと待ってよルル・・・私も行く!後でね、カレン!」
踵を返したルルーシュを、ライン引きを引きずりながらシャーリーが小走りで追いかける。
「ええ、また後で」
カレンは弱々しげな顔で頷くと、三人の背中を見送った。
そして十分に遠ざかった事を確認すると、再び腹の中を吐き出した。
「ルルーシュの奴・・・なんなのよあれ・・・!」
あの時、公園でひっぱたいたのを未だに根に持っているに違いない。
なんて心の狭い男、と呟いて、カレンは腰を屈めて足元に転がってきた布の玉を手に取った。
そのまま白の玉を見詰め、ぎりぎりと歯噛みする。
・・・今日は『大運動会』の為に、一日中『病弱な少女』を装っていなくてはならない。
元来、体を動かす事が大好きなカレンにとっては、イライラ度合いも急上昇であった。
さらに、自分が白組というのも気にくわない。
(よりによって白組なんて・・・あのブリキのムカつく白兜を思い出すじゃないの!)
ぐぐぐ、と手にした布製のボールが有り得ない形に潰れた。
(せめて紅蓮の色、赤組だったらよかったのに!でも私はやっぱり黒が・・・ああもう・・・これだからブリタニアって!)
すべての苛立ちを『打倒ブリタニア』に変換して、カレンが顔を上げる。
周囲に誰もいない事を確認すると、カレンは地面に籠を置き、未だ割れないくす玉を見据えた。
深呼吸を一つ。
足元の土を蹴り、大きく振りかぶって――――
「・・・くらえっ、白兜ぉっ!」
一球入魂とばかりに振り切った腕から、白球が放たれた。
レーザービームのように真っ直ぐな軌跡を描いて飛んでいく。
玉は的である白いくす玉の脇を通り抜け・・・・
「あれ?」
カレンの口から呟きが漏れるのと同時に、ほわあぁっという間抜けな叫び声が遠くで上がった。
「きゃーっ、ルル大丈夫!?」
遠くでシャーリーの悲鳴が聞こえる。
目を凝らして見れば、憎きルルーシュ・ランペルージが後頭部を押さえてうずくまっているではないか。
(・・・うん、これは仕方ない不可抗力だ、わざとじゃないし・・・というよりむしろ天罰?そういやあいつブリタニア人だし、じゃあ打倒ブリタニアって事で・・・いいですよね、ゼロ!)
投球ポーズのまま思考を彼方へと飛ばした後、『病弱な少女』はそそくさと乱れた衣服を正し、籠を手にする。
そして鼻歌を歌いながら、今度は真面目に玉拾いに精を出す事にした。


<07-10-21>
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