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スザクとクリスマスの夜の出来事、その3(完結)。
* * * * *
12/25 PM10:05 -アッシュフォード学園 生徒会室
一枚のメモを握りしめて、僕は真っ直ぐに学園の生徒会室へと向かう。
昇降口の扉には鍵がかかっていなかった。
普段ならこんな時間に開いているはずもない・・・やはり誰かいるのだろうか。
走り出したい気持ちを押さえて、生徒会室へと続く廊下を足早に進む。
薄暗い廊下にいつもの部屋から漏れる光が見えた。
軽く深呼吸をしてから扉の前に立つと、自動ドアがスライドして視界が開ける。
目に飛び込んできたのは、部屋中に飾り付けられた色とりどりのモールと、大きなツリー、そして――――
「おっそおおおおおーい!!!スザク、大遅刻よっ!?」
響き渡ったよく通る声に僕は目をしばたかせた。
「・・・ミレイさん!?みんなも・・・何してるの?」
「何してるの、じゃねーだろスザク!いつまで待たせる気だよ!」
白いヒゲ付きの鼻眼鏡をひっかけたリヴァルが、ソファから立ち上がって口を尖らせる。
「そうよ、あんたが遅れるから・・・大変だったんだから、こっちは!」
普段は大人しいカレンまでが荒っぽい言葉遣いで睨み付けてきた。
何故か机に伏していたシャーリーが赤い顔を上げる。
「ルルから聞いてるでしょお、今日のクリスマス会の事~」
「・・・クリスマス会・・・ルルーシュから?」
不思議そうな顔をする僕を見て、ミレイさんが隣に座っているルルーシュを指先でつついた。
「ちょっとぉ~ルルちゃん、ちゃんとスザクに伝えたの!?今日の事」
「・・・もちろん伝えたさ・・・」
手に持ったグラスを傾けながら、ルルーシュが地底から響くような低い声で答える。
「しかしこいつときたら、まだこっちが何も言ってないのに仕事があるとか言い出して・・・」
ああ、そういえば昨日の昼、ルルーシュが何か言っていたような――――
『スザク、明日の夜なんだが・・・』
『あ、ゴメン、明日は一日中仕事があるんだけど』
『・・・・・・・・・もういい・・・』
『・・・へ?』
「聞いてもいないのに自分から言い訳を始める奴は大方嘘をついている・・・どうせおまえの事だから、今までどこぞで引っかけた年上の女とよろしくやってたんだろ!」
「ちょっ・・・何それ!?そんな事あるわけないだろ、ずっと仕事だったんだから!」
「どうだか・・・」
「何言ってるんだよ、本当だってば!」
「フン、必死な所がますます疑わしいな」
「ルルーシュ!?」
「んー、夫婦げんかは余所でやってほしいのよねえ~」
「誰が夫婦げんかだっ!」「誰が夫婦げんかですかっ!」
「あらまあ息もぴったり仲良しね二人とも!・・・ま、とりあえず座って食べなさいよスザク」
口を揃えて反論した僕らを軽くいなして、ミレイさんがソファの空いたスペースを指差す。
脱力してソファに腰掛けるとニーナがおずおずと取り皿とフォークを差し出した。
テーブルの上にはクリスマスらしく鶏の丸焼きや生徒会では定番のピザ、サラダ、パスタ、ケーキにプリンまでもが所狭しと並んでいる。
「ピザ以外は手作りなのよ~」
ミレイさんが豊かな胸を大きく反らして自慢げに笑った。
「美味しいです!チキンの丸焼きなんて初めて食べましたよ」
「それ七面鳥よ、クリスマスだからね。焼くの大変だったのよ?」
「もう少し早く来ればナナリーと咲世子さんもいたんだけどな」
二人は僕と入れ替わりのように、一足先にクラブハウスへ戻ったという事だった。
ナナリーが会えなくて残念がってたぞ、と言いながらリヴァルがレンジで温めたピザをすすめてきた。
「そっか・・・ゴメンね、遅れちゃって」
「来たんだからいいって事よ、なあルルーシュ!」
ルルーシュを見れば、細身のグラスを片手に涼しい顔で革張りのソファにゆったりと腰掛けている。
すらりとした脚を組んでグラスを傾ける様は何とも言えない風格があって、さすが皇族といった感じだ。
いつも首元まできちんと留められているシャツのボタンは外されていて、少し気怠げな表情が艶めかしい。
思わず見とれていると、ルルーシュがこちらに目を留めて婉然と微笑んだ。
「スザク、どうだ料理は?」
「うん、美味しいよ!」
「そうか、『クリスマス会』は楽しいか?」
「それは、とっても!」
よかった、と言ってルルーシュが花のように鮮やかに笑う。どうやら機嫌も直ったらしい。
ほっとして息をつくと、紫の瞳を細めてルルーシュが続けた。
「じゃあスザク、」
「ん、なにルルーシュ?」
「脱げ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、い?」
・・・今のはちょっとした聞き間違いかもしれない。
「聞こえなかったか?」
そんな希望をうち破ってルルーシュが満面の笑顔で言った・・・今度ははっきりと。
「余興がなくてつまらん。脱いで踊れ、スザク」
「えっ・・・・ちょ、っと、な、な何言ってるんだよ・・・・・・ルルーシュ!?」
慌てる僕を見て、ルルーシュの隣に鎮座する女王様がカラカラと笑って頷く。
「あ、いいわねえそれ!余興にぴったり」
「ちょっと、ミレイさんまで!?」
つまらなそうな顔で僕を睨みながら、ルルーシュがグラスをあおる。薄い金色の液体が見る間に消えた。
上気した頬、潤んだ瞳、気怠げな吐息・・・これはひょっとして。
「あのちょっと、もしかして・・・・・・ルルーシュ、酔ってる?」
「・・・酔ってない」
「・・・いやあのさそれ」
「酔ってなどいないっ!リヴァル!」
ルルーシュが勢いよくグラスを掲げると、はーいただいま、という声と共に繊細な泡の混じった液体が継ぎ足される。
リヴァルの持っているボトルは・・・どうみてもシャンパンだ。
「リヴァル・・・」
「あ、ははは、スザク、まあそんなわけで、ねえ」
がんばってー、とリヴァルが愛想笑いを浮かべながら、ミレイさんから突き出されたグラスにシャンパンを継ぎ足した。
「み、みんな・・・」
「・・・ルルったら・・・ぜえええんぜん気にしてないのよおおお、ちょっとぐらいはぁ、気付いてくれてもいいのに~!」
見れば、いつもストッパー役のシャーリーが、真っ赤な顔でカレン相手にくだを巻いている。
シャーリーの影で空のグラスを手に船をこいでいるのはニーナのようだ。
視線に気づいたカレンがこちらをちらりと見やって、何事か言った。
唇の形を読むに――――
あ き ら め が か ん じ ん
ちょっと聞いてるのカレン、との言葉に彼女はそそくさとこちらから背を向けた。
・・・援軍の見込みなし、である。
「どうしたスザク、早くしろ」
そう言うルルーシュの目は完全に据わっている。
「そーよ!これは、アッシュフォード学園、生徒会長様と副会長様の、命令!なのよ!」
さらに絶対権力を振りかざしてミレイさんが断言した。
この人に至ってはいつものノリであるので、酔っているのか、面白がっているのかよくわからない。
とにかくここは風紀委員である自分がこの暴走を止めるしかない。
「会長もルルーシュも・・・飲み過ぎです!いいかげんにしてください!」
「えーっ、ここでその反応~!?ノリ悪~い、スザクくん、つまんな~いっ!」
子供のようにじたばたと駄々をこねるミレイさんの隣で、呆れたようなため息が聞こえた。
「本当に空気の読めん奴だな、おまえは」
「・・・あのねルルーシュ」
「ならば俺が脱ぐ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?」
青天の霹靂。
唖然として聞き返すと、ルルーシュが立ち上がってシャツのボタンを外し始めた。
はだけたシャツから覗いた白い肌に思わず息を飲む。その手がベルトにかかったところで、我に返った。
一足飛びで料理の載った低い応接テーブルを飛び越えて、ルルーシュの手をがっちり留める。
「ちょっと待ってルルーシュ!!!」
「なんだ」
うるさそうな顔でルルーシュが顔を顰めた。
「なんだ、じゃないよ!ちょっとそれは・・・やっぱり、よくないと思うんだよね!たぶん」
「なぜだ?王様が自分から動かないと兵はついてこないだろう」
「はあ!?それってどういう理屈なんだよ!」
「いいじゃなーい、この際誰でも」
「よくありません!」
「じゃ、あなたが何かやりなさいよ、スザク」
「うっ・・・」
ミレイさんが頬杖を付きながら、うふふふふ、と不気味な笑いを漏らす・・・しまった、完全に罠に嵌ってしまった。
といっても、さすがに脱いで踊る・・・わけにはいかない。
「ええっと、じゃあ・・・歌を歌います、クリスマスの」
この状況で逃げるのは無理だ・・・諦めて、苦し紛れに歌を歌うことを思いついた。
昔、学校の『クリスマス会』で歌わされた歌を必死に思い出しながら、やけになりつつ口を開く。
きよしこの夜 星はひかり 救いの御子は 御母の胸に 眠り給う 夢やすく
途切れ途切れにゆっくりと歌い終えると、その場はすっかり静まり返っていた。
また空気読めとでも言われれるのだろうか・・・いや、違う。
あることに気がついて、僕は慌てて思い切り頭を下げた。
「あっ・・・僕、いま日本語で歌を・・・!?すみませんっ!」
当然ながら、このエリア11で日本語を使うことは禁じられている。歌なんてもっての他だ。
頭を下げたままの僕の耳に、ぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。
顔を上げると、手を叩きながら笑顔でみんながこっちを見ている。
「ブラボー!」「よかったわ~」「スザクくんって、歌、上手なのね」「いいじゃない日本語だって」
イレブン嫌いのニーナも恥ずかしそうに手を叩いてくれている。カレンは何故か上機嫌だ。
「ん?ちょっとルルちゃん・・・ルルちゃんてば!」
ミレイさんの声に奥へと視線を移せば、ルルーシュがクッションを抱きしめてソファにつぶれている。
思わずため息をつくと、ミレイさんがちょいちょいと手招きして自分の隣の席を勧めた。
ミレイさんの隣という特等席にリヴァルが頬を引きつらせるのを横目で見つつ、僕は素知らぬ顔で会長とルルーシュの間に座る。
「はいスザク、ご苦労様」
「ミレイさん、これ・・・」
「大丈夫、こっちはホントの炭酸ジュースよ」
ジンジャーエールを一口飲んで、僕は傍らのルルーシュの寝顔を覗き込んだ。
ルルーシュは柔らかなクッションに顔を埋めて寝息を立てている。
「ルルーシュね、さっきはあんな事言ってたけど・・・」
ミレイさんが笑いをこらえるような表情で、僕の顔を覗き込んで猫のように目を細めた。
「スザクも遅くなりそうだし、もうお開きにしようかって言ったら・・・『あいつが来るまで一人でも待ってる!』って言って聞かなかったのよ」
だから起きたらちゃんとお礼言いなさいね?
そう言ってウインクすると、ミレイさんは再びくだを巻き始めたシャーリーを宥めに席を立った。
リヴァルがボトルを手に嬉しそうに後を追う。
傍らでつぶれるルルーシュの顔を覗き込めば、長い睫毛が少しだけ震えた。
「・・・起きてるの?ルルーシュ」
「・・・ん・・・起きてない」
彼らしくない、幼い言い訳に思わず苦笑いが漏れる。
クッションに顔を埋めたルルーシュが、上目遣いでこちらを窺った。
目の縁がほんのりと赤く染まっている。
「さっきの歌、聞いててくれた?」
「・・・・・・聞いてない・・・聞いてなかったから、今度は、」
俺のためだけに歌え、とルルーシュがもぞもぞと呟いた。それからナナリーのために、と。
「・・・次から遅刻は許さないからな」
「うん・・・でも、待っていてくれるんだろ?」
「ああ、そうだ。この俺が待っていてやるんだから、おまえはちゃんと戻って来なくちゃいけないんだ」
ルルーシュがゆっくりと身を起こして、真っ直ぐに僕の目を見つめる。
「だから・・・自分が一人だなんて思ったら大間違いなんだからな!」
そう言った瞬間、ルルーシュの体がぐらりと揺らぐ。
慌てて支えるとぐったりともたれかかってきた。
触れた部分からルルーシュの熱が伝わってくる。アルコールが回っているせいなのか、体温が高い。
室内に目を走らせると、会長たちはこちらに背を向けて何やら楽しそうに騒いでいる。
誰も見ていないのをいいことに、僕はルルーシュの瞼にそっと口づけて囁いた。
「大丈夫、浮気しないで真っ直ぐ君の所へ帰るから」
「あ、あ、当たり前だっ!浮気なんて・・・絶対許さないからなっ、この馬鹿スザク!」
眠たそうだったルルーシュが、目をぱっちり開けて思い切り怒鳴った。
静まりかえった室内に目を上げると、僕たちを除いた全員がこっちを見て固まっている。
「ええっと・・・あの、め、メリークリスマス!」
「・・・め、メリークリスマス!」
居たたまれない空気に声を掛けると、引きつった笑いを浮かべて全員がグラスを掲げた。
ルルーシュは目を閉じて、また寝たふりをしている・・・真っ赤な顔で。
一人だなんて思うな、なんて――――
何度もルルーシュの言葉を心の中で繰り返しながら、僕は微笑んだ。
いつだって君は僕が一番欲しい言葉をくれる。
君が待っていてくれるから、きっと僕は戦える・・・この先もずっと。
「・・・スザク?」
心地よい疲れが体を満たして、腕の中の温もりに引き込まれるように急激に眠気が襲ってくる。
ルルーシュを腕に抱いたまま、僕は目を閉じて息をついた。
・・・君と一緒なら、きっといい夢が見られるに違いない。
眠りに落ちる瞬間、ルルーシュの呟きが耳元で優しく響いた。
「メリークリスマス・・・おやすみ、スザク」
<07-12-30>
12/25 PM10:05 -アッシュフォード学園 生徒会室
一枚のメモを握りしめて、僕は真っ直ぐに学園の生徒会室へと向かう。
昇降口の扉には鍵がかかっていなかった。
普段ならこんな時間に開いているはずもない・・・やはり誰かいるのだろうか。
走り出したい気持ちを押さえて、生徒会室へと続く廊下を足早に進む。
薄暗い廊下にいつもの部屋から漏れる光が見えた。
軽く深呼吸をしてから扉の前に立つと、自動ドアがスライドして視界が開ける。
目に飛び込んできたのは、部屋中に飾り付けられた色とりどりのモールと、大きなツリー、そして――――
「おっそおおおおおーい!!!スザク、大遅刻よっ!?」
響き渡ったよく通る声に僕は目をしばたかせた。
「・・・ミレイさん!?みんなも・・・何してるの?」
「何してるの、じゃねーだろスザク!いつまで待たせる気だよ!」
白いヒゲ付きの鼻眼鏡をひっかけたリヴァルが、ソファから立ち上がって口を尖らせる。
「そうよ、あんたが遅れるから・・・大変だったんだから、こっちは!」
普段は大人しいカレンまでが荒っぽい言葉遣いで睨み付けてきた。
何故か机に伏していたシャーリーが赤い顔を上げる。
「ルルから聞いてるでしょお、今日のクリスマス会の事~」
「・・・クリスマス会・・・ルルーシュから?」
不思議そうな顔をする僕を見て、ミレイさんが隣に座っているルルーシュを指先でつついた。
「ちょっとぉ~ルルちゃん、ちゃんとスザクに伝えたの!?今日の事」
「・・・もちろん伝えたさ・・・」
手に持ったグラスを傾けながら、ルルーシュが地底から響くような低い声で答える。
「しかしこいつときたら、まだこっちが何も言ってないのに仕事があるとか言い出して・・・」
ああ、そういえば昨日の昼、ルルーシュが何か言っていたような――――
『スザク、明日の夜なんだが・・・』
『あ、ゴメン、明日は一日中仕事があるんだけど』
『・・・・・・・・・もういい・・・』
『・・・へ?』
「聞いてもいないのに自分から言い訳を始める奴は大方嘘をついている・・・どうせおまえの事だから、今までどこぞで引っかけた年上の女とよろしくやってたんだろ!」
「ちょっ・・・何それ!?そんな事あるわけないだろ、ずっと仕事だったんだから!」
「どうだか・・・」
「何言ってるんだよ、本当だってば!」
「フン、必死な所がますます疑わしいな」
「ルルーシュ!?」
「んー、夫婦げんかは余所でやってほしいのよねえ~」
「誰が夫婦げんかだっ!」「誰が夫婦げんかですかっ!」
「あらまあ息もぴったり仲良しね二人とも!・・・ま、とりあえず座って食べなさいよスザク」
口を揃えて反論した僕らを軽くいなして、ミレイさんがソファの空いたスペースを指差す。
脱力してソファに腰掛けるとニーナがおずおずと取り皿とフォークを差し出した。
テーブルの上にはクリスマスらしく鶏の丸焼きや生徒会では定番のピザ、サラダ、パスタ、ケーキにプリンまでもが所狭しと並んでいる。
「ピザ以外は手作りなのよ~」
ミレイさんが豊かな胸を大きく反らして自慢げに笑った。
「美味しいです!チキンの丸焼きなんて初めて食べましたよ」
「それ七面鳥よ、クリスマスだからね。焼くの大変だったのよ?」
「もう少し早く来ればナナリーと咲世子さんもいたんだけどな」
二人は僕と入れ替わりのように、一足先にクラブハウスへ戻ったという事だった。
ナナリーが会えなくて残念がってたぞ、と言いながらリヴァルがレンジで温めたピザをすすめてきた。
「そっか・・・ゴメンね、遅れちゃって」
「来たんだからいいって事よ、なあルルーシュ!」
ルルーシュを見れば、細身のグラスを片手に涼しい顔で革張りのソファにゆったりと腰掛けている。
すらりとした脚を組んでグラスを傾ける様は何とも言えない風格があって、さすが皇族といった感じだ。
いつも首元まできちんと留められているシャツのボタンは外されていて、少し気怠げな表情が艶めかしい。
思わず見とれていると、ルルーシュがこちらに目を留めて婉然と微笑んだ。
「スザク、どうだ料理は?」
「うん、美味しいよ!」
「そうか、『クリスマス会』は楽しいか?」
「それは、とっても!」
よかった、と言ってルルーシュが花のように鮮やかに笑う。どうやら機嫌も直ったらしい。
ほっとして息をつくと、紫の瞳を細めてルルーシュが続けた。
「じゃあスザク、」
「ん、なにルルーシュ?」
「脱げ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、い?」
・・・今のはちょっとした聞き間違いかもしれない。
「聞こえなかったか?」
そんな希望をうち破ってルルーシュが満面の笑顔で言った・・・今度ははっきりと。
「余興がなくてつまらん。脱いで踊れ、スザク」
「えっ・・・・ちょ、っと、な、な何言ってるんだよ・・・・・・ルルーシュ!?」
慌てる僕を見て、ルルーシュの隣に鎮座する女王様がカラカラと笑って頷く。
「あ、いいわねえそれ!余興にぴったり」
「ちょっと、ミレイさんまで!?」
つまらなそうな顔で僕を睨みながら、ルルーシュがグラスをあおる。薄い金色の液体が見る間に消えた。
上気した頬、潤んだ瞳、気怠げな吐息・・・これはひょっとして。
「あのちょっと、もしかして・・・・・・ルルーシュ、酔ってる?」
「・・・酔ってない」
「・・・いやあのさそれ」
「酔ってなどいないっ!リヴァル!」
ルルーシュが勢いよくグラスを掲げると、はーいただいま、という声と共に繊細な泡の混じった液体が継ぎ足される。
リヴァルの持っているボトルは・・・どうみてもシャンパンだ。
「リヴァル・・・」
「あ、ははは、スザク、まあそんなわけで、ねえ」
がんばってー、とリヴァルが愛想笑いを浮かべながら、ミレイさんから突き出されたグラスにシャンパンを継ぎ足した。
「み、みんな・・・」
「・・・ルルったら・・・ぜえええんぜん気にしてないのよおおお、ちょっとぐらいはぁ、気付いてくれてもいいのに~!」
見れば、いつもストッパー役のシャーリーが、真っ赤な顔でカレン相手にくだを巻いている。
シャーリーの影で空のグラスを手に船をこいでいるのはニーナのようだ。
視線に気づいたカレンがこちらをちらりと見やって、何事か言った。
唇の形を読むに――――
あ き ら め が か ん じ ん
ちょっと聞いてるのカレン、との言葉に彼女はそそくさとこちらから背を向けた。
・・・援軍の見込みなし、である。
「どうしたスザク、早くしろ」
そう言うルルーシュの目は完全に据わっている。
「そーよ!これは、アッシュフォード学園、生徒会長様と副会長様の、命令!なのよ!」
さらに絶対権力を振りかざしてミレイさんが断言した。
この人に至ってはいつものノリであるので、酔っているのか、面白がっているのかよくわからない。
とにかくここは風紀委員である自分がこの暴走を止めるしかない。
「会長もルルーシュも・・・飲み過ぎです!いいかげんにしてください!」
「えーっ、ここでその反応~!?ノリ悪~い、スザクくん、つまんな~いっ!」
子供のようにじたばたと駄々をこねるミレイさんの隣で、呆れたようなため息が聞こえた。
「本当に空気の読めん奴だな、おまえは」
「・・・あのねルルーシュ」
「ならば俺が脱ぐ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?」
青天の霹靂。
唖然として聞き返すと、ルルーシュが立ち上がってシャツのボタンを外し始めた。
はだけたシャツから覗いた白い肌に思わず息を飲む。その手がベルトにかかったところで、我に返った。
一足飛びで料理の載った低い応接テーブルを飛び越えて、ルルーシュの手をがっちり留める。
「ちょっと待ってルルーシュ!!!」
「なんだ」
うるさそうな顔でルルーシュが顔を顰めた。
「なんだ、じゃないよ!ちょっとそれは・・・やっぱり、よくないと思うんだよね!たぶん」
「なぜだ?王様が自分から動かないと兵はついてこないだろう」
「はあ!?それってどういう理屈なんだよ!」
「いいじゃなーい、この際誰でも」
「よくありません!」
「じゃ、あなたが何かやりなさいよ、スザク」
「うっ・・・」
ミレイさんが頬杖を付きながら、うふふふふ、と不気味な笑いを漏らす・・・しまった、完全に罠に嵌ってしまった。
といっても、さすがに脱いで踊る・・・わけにはいかない。
「ええっと、じゃあ・・・歌を歌います、クリスマスの」
この状況で逃げるのは無理だ・・・諦めて、苦し紛れに歌を歌うことを思いついた。
昔、学校の『クリスマス会』で歌わされた歌を必死に思い出しながら、やけになりつつ口を開く。
きよしこの夜 星はひかり 救いの御子は 御母の胸に 眠り給う 夢やすく
途切れ途切れにゆっくりと歌い終えると、その場はすっかり静まり返っていた。
また空気読めとでも言われれるのだろうか・・・いや、違う。
あることに気がついて、僕は慌てて思い切り頭を下げた。
「あっ・・・僕、いま日本語で歌を・・・!?すみませんっ!」
当然ながら、このエリア11で日本語を使うことは禁じられている。歌なんてもっての他だ。
頭を下げたままの僕の耳に、ぱちぱちと拍手の音が聞こえてきた。
顔を上げると、手を叩きながら笑顔でみんながこっちを見ている。
「ブラボー!」「よかったわ~」「スザクくんって、歌、上手なのね」「いいじゃない日本語だって」
イレブン嫌いのニーナも恥ずかしそうに手を叩いてくれている。カレンは何故か上機嫌だ。
「ん?ちょっとルルちゃん・・・ルルちゃんてば!」
ミレイさんの声に奥へと視線を移せば、ルルーシュがクッションを抱きしめてソファにつぶれている。
思わずため息をつくと、ミレイさんがちょいちょいと手招きして自分の隣の席を勧めた。
ミレイさんの隣という特等席にリヴァルが頬を引きつらせるのを横目で見つつ、僕は素知らぬ顔で会長とルルーシュの間に座る。
「はいスザク、ご苦労様」
「ミレイさん、これ・・・」
「大丈夫、こっちはホントの炭酸ジュースよ」
ジンジャーエールを一口飲んで、僕は傍らのルルーシュの寝顔を覗き込んだ。
ルルーシュは柔らかなクッションに顔を埋めて寝息を立てている。
「ルルーシュね、さっきはあんな事言ってたけど・・・」
ミレイさんが笑いをこらえるような表情で、僕の顔を覗き込んで猫のように目を細めた。
「スザクも遅くなりそうだし、もうお開きにしようかって言ったら・・・『あいつが来るまで一人でも待ってる!』って言って聞かなかったのよ」
だから起きたらちゃんとお礼言いなさいね?
そう言ってウインクすると、ミレイさんは再びくだを巻き始めたシャーリーを宥めに席を立った。
リヴァルがボトルを手に嬉しそうに後を追う。
傍らでつぶれるルルーシュの顔を覗き込めば、長い睫毛が少しだけ震えた。
「・・・起きてるの?ルルーシュ」
「・・・ん・・・起きてない」
彼らしくない、幼い言い訳に思わず苦笑いが漏れる。
クッションに顔を埋めたルルーシュが、上目遣いでこちらを窺った。
目の縁がほんのりと赤く染まっている。
「さっきの歌、聞いててくれた?」
「・・・・・・聞いてない・・・聞いてなかったから、今度は、」
俺のためだけに歌え、とルルーシュがもぞもぞと呟いた。それからナナリーのために、と。
「・・・次から遅刻は許さないからな」
「うん・・・でも、待っていてくれるんだろ?」
「ああ、そうだ。この俺が待っていてやるんだから、おまえはちゃんと戻って来なくちゃいけないんだ」
ルルーシュがゆっくりと身を起こして、真っ直ぐに僕の目を見つめる。
「だから・・・自分が一人だなんて思ったら大間違いなんだからな!」
そう言った瞬間、ルルーシュの体がぐらりと揺らぐ。
慌てて支えるとぐったりともたれかかってきた。
触れた部分からルルーシュの熱が伝わってくる。アルコールが回っているせいなのか、体温が高い。
室内に目を走らせると、会長たちはこちらに背を向けて何やら楽しそうに騒いでいる。
誰も見ていないのをいいことに、僕はルルーシュの瞼にそっと口づけて囁いた。
「大丈夫、浮気しないで真っ直ぐ君の所へ帰るから」
「あ、あ、当たり前だっ!浮気なんて・・・絶対許さないからなっ、この馬鹿スザク!」
眠たそうだったルルーシュが、目をぱっちり開けて思い切り怒鳴った。
静まりかえった室内に目を上げると、僕たちを除いた全員がこっちを見て固まっている。
「ええっと・・・あの、め、メリークリスマス!」
「・・・め、メリークリスマス!」
居たたまれない空気に声を掛けると、引きつった笑いを浮かべて全員がグラスを掲げた。
ルルーシュは目を閉じて、また寝たふりをしている・・・真っ赤な顔で。
一人だなんて思うな、なんて――――
何度もルルーシュの言葉を心の中で繰り返しながら、僕は微笑んだ。
いつだって君は僕が一番欲しい言葉をくれる。
君が待っていてくれるから、きっと僕は戦える・・・この先もずっと。
「・・・スザク?」
心地よい疲れが体を満たして、腕の中の温もりに引き込まれるように急激に眠気が襲ってくる。
ルルーシュを腕に抱いたまま、僕は目を閉じて息をついた。
・・・君と一緒なら、きっといい夢が見られるに違いない。
眠りに落ちる瞬間、ルルーシュの呟きが耳元で優しく響いた。
「メリークリスマス・・・おやすみ、スザク」
<07-12-30>
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