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スザクとルルーシュ、ほのぼの系閑話幻想話。
* * * * *
02. 不 審
アッシュフォード学園高等部は、広い道路を挟んで、大学部の向かい側に位置している。
ルルーシュとナナリーが住むクラブハウスまでは、大学部の寮から歩いて10分ほどの距離だ。
高等部の校舎脇を抜けると、クラブハウスが見えてくる。
スザクはテラスに見知った顔を見つけると、笑顔で声を掛けた。
「こんにちは、ナナリー、咲世子さん」
「まあ、スザクさん。いらっしゃい」
ナナリーが嬉しそうにスザクの声がした方を振り仰ぐ。
傍らに立つ咲世子が、そんなナナリーを見て優しく微笑んだ。
「スザクさんの方から遊びに来てくださるなんて、珍しいですね」
「そんなに不義理をしているかな、僕は」
「だってスザクさん、なかなかうちに寄ってくださらないんですもの」
「ナナリー様・・・スザクさんも『お仕事』がありますからね」
珍しく拗ねたようなナナリーの言葉を、咲世子がやんわりとたしなめる。
ナナリーは俯いて、我が儘言ってごめんなさい、と恥ずかしそうに呟いた。
スザクは小さく頭を振って、車椅子の前に膝をつく。
軍務が忙しいのもあったが、二人の家に寄らないようにしているのは本当だった。
穏やかに暮らす兄妹の元に『軍人』の身分で立ち入るのは気が引けたし、
なにより『名誉ブリタニア人』である自分のせいで、身分を隠して暮らす二人が目立つ事は避けたかったからだ。
・・・二人を思っての事だったが、ナナリーには寂しい思いをさせているのかもしれない。
スザクは申し訳ない気持ちになって、俯いた少女の手を取る。
「ごめんね、ナナリー」
「そんな、スザクさんが謝ることではありませんわ」
ナナリーが驚いたように言って、笑顔を取り戻した。
咲世子が車椅子に手を掛け、ナナリーをそっと覗き込む。
「ナナリー様、せっかくですから皆さんでお茶でも・・・」
「そうですね。そうしましょう咲世子さん」
「ありがとう、ご一緒させてもらうよ。ルルーシュもいるよね?実はさっき電話をもらって来たんだけど・・・」
スザクの言葉に、ナナリーと咲世子は驚いたように顔を見合わせた。
戸惑ったような二人の様子に、スザクは思わず声をひそめて尋ねる。
「ルルーシュ、どうかしたの」
「実は・・・お兄様、今朝からお部屋にこもられたきりで・・・外に出ていらっしゃらないんです」
ナナリーが困惑気味に答えた。
「ご気分でも悪いのかと思ったのですが・・・大丈夫だから放っておいてくれ、と」
咲世子が頬に手をあてて、いつもは必ずナナリー様と食事を召し上がるのですが、と首を傾げる。
スザクは眉をしかめた。
ナナリーと過ごす時間を何よりも大切にしているルルーシュの行動とは思えない。
「わかった、とりあえず部屋に行って僕が様子を見てくるよ」
「・・・スザクさん、お願いします」
心配そうなナナリーの声を背に、スザクはエントランスへと足を踏み入れた。
ルルーシュの私室はクラブハウスの2階にある。
階段をあがり、部屋の前に立ったスザクはそっと中の様子を窺った。
部屋の中から物音はしない――――それどころか、人の気配がしない。
軍での訓練と数々の戦闘経験から、そういった感覚に関してスザクはひどく鋭かった。
・・・ルルーシュは本当に部屋にいるのだろうか。
疑問を感じながらも、スザクは背筋を伸ばして扉を軽くノックする。
「・・・ルルーシュ?いるの?」
しばしの沈黙の後、警戒したように小さな声が返ってきた。
「・・・・・・スザクか?」
「うん。言われた通り来たけど・・・いきなりどうしたの?」
「・・・一人か?」
「う、うん」
「じゃあ入れ」
スザクはノブをひねると、そっとドアを開け、部屋の中へ恐る恐る首だけを覗かせた。
途端、ルルーシュの鋭い声が響く。
「早く入ってドアを閉めろ!」
「えっ・・・ご、ごめん!」
慌てて部屋に飛び込むと、後ろ手にドアを閉める。
「遅かったじゃないか、まったく・・・すっかり待ちくたびれたぞ」
突然の呼び出しからさほど時間も経っていないというのに、ルルーシュはぶつぶつと文句を言っている。
「そんなこと・・・あれ、ルルーシュ?」
反論しようとして、スザクは部屋の中を見回した。
声の主が見当たらない。
部屋の中はすっきりと整頓されており、隠れるような場所はまるでない。
几帳面な所は昔から変わらないな、と頭の片隅で思いながら目を彷徨わせていると、また声が響いた。
「ここだ、スザク」
声のする方を見れば、上質の生地が張られた椅子の上に、一匹の黒猫が鎮座している。
天鵞絨を思わせる漆黒の毛並み。瞳の色は吸い込まれそうに深い紫。
よくできた置物だと感心したスザクが猫の顔を眺めていると、その口がゆっくり動いて、親友の声で告げた。
「俺だよ・・・ルルーシュだ」
スザクはぽかんと口を開けて、黒猫を見つめた。
<07-05-09>
<07-05-13(revised)>
02. 不 審
アッシュフォード学園高等部は、広い道路を挟んで、大学部の向かい側に位置している。
ルルーシュとナナリーが住むクラブハウスまでは、大学部の寮から歩いて10分ほどの距離だ。
高等部の校舎脇を抜けると、クラブハウスが見えてくる。
スザクはテラスに見知った顔を見つけると、笑顔で声を掛けた。
「こんにちは、ナナリー、咲世子さん」
「まあ、スザクさん。いらっしゃい」
ナナリーが嬉しそうにスザクの声がした方を振り仰ぐ。
傍らに立つ咲世子が、そんなナナリーを見て優しく微笑んだ。
「スザクさんの方から遊びに来てくださるなんて、珍しいですね」
「そんなに不義理をしているかな、僕は」
「だってスザクさん、なかなかうちに寄ってくださらないんですもの」
「ナナリー様・・・スザクさんも『お仕事』がありますからね」
珍しく拗ねたようなナナリーの言葉を、咲世子がやんわりとたしなめる。
ナナリーは俯いて、我が儘言ってごめんなさい、と恥ずかしそうに呟いた。
スザクは小さく頭を振って、車椅子の前に膝をつく。
軍務が忙しいのもあったが、二人の家に寄らないようにしているのは本当だった。
穏やかに暮らす兄妹の元に『軍人』の身分で立ち入るのは気が引けたし、
なにより『名誉ブリタニア人』である自分のせいで、身分を隠して暮らす二人が目立つ事は避けたかったからだ。
・・・二人を思っての事だったが、ナナリーには寂しい思いをさせているのかもしれない。
スザクは申し訳ない気持ちになって、俯いた少女の手を取る。
「ごめんね、ナナリー」
「そんな、スザクさんが謝ることではありませんわ」
ナナリーが驚いたように言って、笑顔を取り戻した。
咲世子が車椅子に手を掛け、ナナリーをそっと覗き込む。
「ナナリー様、せっかくですから皆さんでお茶でも・・・」
「そうですね。そうしましょう咲世子さん」
「ありがとう、ご一緒させてもらうよ。ルルーシュもいるよね?実はさっき電話をもらって来たんだけど・・・」
スザクの言葉に、ナナリーと咲世子は驚いたように顔を見合わせた。
戸惑ったような二人の様子に、スザクは思わず声をひそめて尋ねる。
「ルルーシュ、どうかしたの」
「実は・・・お兄様、今朝からお部屋にこもられたきりで・・・外に出ていらっしゃらないんです」
ナナリーが困惑気味に答えた。
「ご気分でも悪いのかと思ったのですが・・・大丈夫だから放っておいてくれ、と」
咲世子が頬に手をあてて、いつもは必ずナナリー様と食事を召し上がるのですが、と首を傾げる。
スザクは眉をしかめた。
ナナリーと過ごす時間を何よりも大切にしているルルーシュの行動とは思えない。
「わかった、とりあえず部屋に行って僕が様子を見てくるよ」
「・・・スザクさん、お願いします」
心配そうなナナリーの声を背に、スザクはエントランスへと足を踏み入れた。
ルルーシュの私室はクラブハウスの2階にある。
階段をあがり、部屋の前に立ったスザクはそっと中の様子を窺った。
部屋の中から物音はしない――――それどころか、人の気配がしない。
軍での訓練と数々の戦闘経験から、そういった感覚に関してスザクはひどく鋭かった。
・・・ルルーシュは本当に部屋にいるのだろうか。
疑問を感じながらも、スザクは背筋を伸ばして扉を軽くノックする。
「・・・ルルーシュ?いるの?」
しばしの沈黙の後、警戒したように小さな声が返ってきた。
「・・・・・・スザクか?」
「うん。言われた通り来たけど・・・いきなりどうしたの?」
「・・・一人か?」
「う、うん」
「じゃあ入れ」
スザクはノブをひねると、そっとドアを開け、部屋の中へ恐る恐る首だけを覗かせた。
途端、ルルーシュの鋭い声が響く。
「早く入ってドアを閉めろ!」
「えっ・・・ご、ごめん!」
慌てて部屋に飛び込むと、後ろ手にドアを閉める。
「遅かったじゃないか、まったく・・・すっかり待ちくたびれたぞ」
突然の呼び出しからさほど時間も経っていないというのに、ルルーシュはぶつぶつと文句を言っている。
「そんなこと・・・あれ、ルルーシュ?」
反論しようとして、スザクは部屋の中を見回した。
声の主が見当たらない。
部屋の中はすっきりと整頓されており、隠れるような場所はまるでない。
几帳面な所は昔から変わらないな、と頭の片隅で思いながら目を彷徨わせていると、また声が響いた。
「ここだ、スザク」
声のする方を見れば、上質の生地が張られた椅子の上に、一匹の黒猫が鎮座している。
天鵞絨を思わせる漆黒の毛並み。瞳の色は吸い込まれそうに深い紫。
よくできた置物だと感心したスザクが猫の顔を眺めていると、その口がゆっくり動いて、親友の声で告げた。
「俺だよ・・・ルルーシュだ」
スザクはぽかんと口を開けて、黒猫を見つめた。
<07-05-09>
<07-05-13(revised)>
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