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スザクとクリスマスの夜の出来事、その1。
* * * * *
12/25 PM9:30 特派トレーラー
「ねえスザクくん、今日はこれから何か予定とかあるのかしら?」
「予定・・・いえ、通常通り11時まで勤務で、その後は特に・・・なぜですか」
「なぜって、クリスマスでしょう、今日は」
「・・・へ?」
間抜けな返答を返した僕に、セシルさんが不思議そうな顔で首を傾げる。
そういえば、今日は12月25日・・・世間で言うところの『クリスマス』だった。
だけど僕はクリスマスというものを今まで一度も祝った事がない。
ブリタニアとの戦争になってから祝うどころの騒ぎじゃなくなった、というのもあるのだが、それ以前からクリスマスなんてものはあってないようなものだった――――なぜなら、僕の実家は神社だからだ。
「ねえ、もし予定がないんだったら、これからクリスマス・パーティでもしようかなって思うんだけど・・・」
ランスロットのコックピットを覗き込むと、セシルさんが何故かこそこそと耳打ちしてきた。
「えっ、これからですか」
「そうよ、調整も予定より早く終わったし、今日はこれでおしまいにしても大丈夫!」
起動キーを引き抜いて立ち上がった僕に、セシルさんがにっこりと微笑む。
何が大丈夫なのかよくわからないけれど、影で『特派における真の支配者』と呼ばれるセシルさんの笑顔は力強い。
軍で支給されたデジタル時計を確認してみれば、時間はぴったりPM9:30。
コックピットから出てトレーラーの中を見渡してみれば、整備班の人たちは既に帰ってしまったようだった。
「どうかしら、スザクくん」
はい喜んで、と返事をしようとして、僕はぎりぎりで言葉を飲み込む。
引き留めたのは、セシルさんのいつもより鮮やかなルージュの色と、ちらちらとせわしなく階下に投げる視線。
見下ろしてみれば、ロイドさんが暢気に鼻歌を歌いながら、ディスプレイの前で熱心にキーボードを叩いている。
『スザク、おまえ空気読めよ!』というリヴァルの声が頭の中で再生された――――なるほど、こういう事か。
「あ、ええと僕、そういえば約束が・・・」
「えっ、そうなの?お料理、実はスザクくんの分も作っちゃったんだけど・・・」
「う・・・あの、すみません・・・」
「気にしないでいいのよ、約束があるなら仕方ないもの」
心底残念そうに呟くセシルさんに、申し訳ないと思いつつも内心で胸を撫で下ろす。
セシルさんの料理はアヴァロンの主砲よりも強大な破壊力を誇っているのだ。
あれに耐えうる味覚を持つ人間はロイドさんを置いて他ならない。
なにしろ甘い物以外は何でも同じ味、という究極の味オンチだ。
この間もセシルさんの自信作、『メープルシロップ入り味噌汁』を美味しそうに平らげていた。
・・・セシルさん、一体どこからそんなレシピを調達してくるんだろう。
「それはそうと、約束があるなら言ってくれればいいのに!せっかくのクリスマスなんだから、早く帰っていいのよ」
「いえ、別に大した事でもないので・・・別にいいんです」
本当は約束なんてしていないので、僕は曖昧に笑ってごまかす。
するとセシルさんは、スザクくん、と言ってちょっとだけ怖い顔をした。
「この世にはね、大した事ない約束、なんてものはないの」
「・・・は、はい、すみません」
恐縮して思わず頭を下げると、セシルさんが表情を和らげていつもの笑顔を浮かべる。
人をほっと安心させるような、それでいて芯の強さを感じさせるような、優しい微笑み。
「待ってる人がいるんでしょう?早く行ってあげなさい」
「・・・はい!それじゃ、お先に失礼させていただきます・・・あの、セシルさん・・・頑張ってくださいね!」
「え?ちょっと・・・」
もう一度軽く頭を下げてから、僕はタラップを越えて一階に飛び降りた。
ロイドさんがディスプレイから顔を上げて、「10.00~!」と楽しそうに手を叩く。
振り返って見上げると、戸惑った顔のセシルさんと目があった。
「今日は参加できなくて残念ですけど・・・ロイドさんと二人っきりで楽しんでください」
「やだもう・・・何言ってるのよ、スザクくん!」
「まったねぇ~、スザクく~ん」
顔を真っ赤にして声をあげるセシルさんと、いつも通りのロイドさんの声に送られて、僕はトレーラーを飛び出した。
外の冷たい空気が火照った頬に心地よい。
見上げれば、澄んだ夜空には青白い星がきらきらと瞬いている。
『待ってる人がいるんでしょう?』
――――嘘を、ついてしまった。
本当は待っている人なんていなかったのに。あっさり頷いた自分に、とてもびっくりした。
僕は嘘が嫌いだ。嘘は汚くて、卑怯で、人を簡単に裏切る。
でもさっきのはそういうのじゃなくて・・・なんだか信じたくなってしまったのだ。
どこかで僕を待ってる人がいるような気がして・・・そんな自分の嘘を、自分で信じたくなってしまった。
「クリスマス、かあ」
きっと今頃トレーラーの中ではセシルさんが自慢の手料理を大量にテーブルに並べている頃だろう。
ロイドさんは大好きなプリンを片手に、蛍光色のおにぎりを頬張っているに違いない。
その様子を想像して、思わず一人で小さく吹き出してしまう。
・・・自分の事なんて、どうでもいいじゃないか。
いつでも僕なんかの事を気に掛けてくれるセシルさんに、つまらない心配をかけなくてよかった。
今、僕がここにいて、ランスロットに乗って、色々な人に会う事ができたのも、あの二人のおかげなのだ。
柄じゃないけど、今日ぐらいはキューピッドならぬ、サンタクロースを気取ってみてもいい。
「ロイドさん、セシルさん・・・メリー・クリスマス!」
僕は小さく呟いて、頭上に広がる星空を見上げた。
<07-12-24>
12/25 PM9:30 特派トレーラー
「ねえスザクくん、今日はこれから何か予定とかあるのかしら?」
「予定・・・いえ、通常通り11時まで勤務で、その後は特に・・・なぜですか」
「なぜって、クリスマスでしょう、今日は」
「・・・へ?」
間抜けな返答を返した僕に、セシルさんが不思議そうな顔で首を傾げる。
そういえば、今日は12月25日・・・世間で言うところの『クリスマス』だった。
だけど僕はクリスマスというものを今まで一度も祝った事がない。
ブリタニアとの戦争になってから祝うどころの騒ぎじゃなくなった、というのもあるのだが、それ以前からクリスマスなんてものはあってないようなものだった――――なぜなら、僕の実家は神社だからだ。
「ねえ、もし予定がないんだったら、これからクリスマス・パーティでもしようかなって思うんだけど・・・」
ランスロットのコックピットを覗き込むと、セシルさんが何故かこそこそと耳打ちしてきた。
「えっ、これからですか」
「そうよ、調整も予定より早く終わったし、今日はこれでおしまいにしても大丈夫!」
起動キーを引き抜いて立ち上がった僕に、セシルさんがにっこりと微笑む。
何が大丈夫なのかよくわからないけれど、影で『特派における真の支配者』と呼ばれるセシルさんの笑顔は力強い。
軍で支給されたデジタル時計を確認してみれば、時間はぴったりPM9:30。
コックピットから出てトレーラーの中を見渡してみれば、整備班の人たちは既に帰ってしまったようだった。
「どうかしら、スザクくん」
はい喜んで、と返事をしようとして、僕はぎりぎりで言葉を飲み込む。
引き留めたのは、セシルさんのいつもより鮮やかなルージュの色と、ちらちらとせわしなく階下に投げる視線。
見下ろしてみれば、ロイドさんが暢気に鼻歌を歌いながら、ディスプレイの前で熱心にキーボードを叩いている。
『スザク、おまえ空気読めよ!』というリヴァルの声が頭の中で再生された――――なるほど、こういう事か。
「あ、ええと僕、そういえば約束が・・・」
「えっ、そうなの?お料理、実はスザクくんの分も作っちゃったんだけど・・・」
「う・・・あの、すみません・・・」
「気にしないでいいのよ、約束があるなら仕方ないもの」
心底残念そうに呟くセシルさんに、申し訳ないと思いつつも内心で胸を撫で下ろす。
セシルさんの料理はアヴァロンの主砲よりも強大な破壊力を誇っているのだ。
あれに耐えうる味覚を持つ人間はロイドさんを置いて他ならない。
なにしろ甘い物以外は何でも同じ味、という究極の味オンチだ。
この間もセシルさんの自信作、『メープルシロップ入り味噌汁』を美味しそうに平らげていた。
・・・セシルさん、一体どこからそんなレシピを調達してくるんだろう。
「それはそうと、約束があるなら言ってくれればいいのに!せっかくのクリスマスなんだから、早く帰っていいのよ」
「いえ、別に大した事でもないので・・・別にいいんです」
本当は約束なんてしていないので、僕は曖昧に笑ってごまかす。
するとセシルさんは、スザクくん、と言ってちょっとだけ怖い顔をした。
「この世にはね、大した事ない約束、なんてものはないの」
「・・・は、はい、すみません」
恐縮して思わず頭を下げると、セシルさんが表情を和らげていつもの笑顔を浮かべる。
人をほっと安心させるような、それでいて芯の強さを感じさせるような、優しい微笑み。
「待ってる人がいるんでしょう?早く行ってあげなさい」
「・・・はい!それじゃ、お先に失礼させていただきます・・・あの、セシルさん・・・頑張ってくださいね!」
「え?ちょっと・・・」
もう一度軽く頭を下げてから、僕はタラップを越えて一階に飛び降りた。
ロイドさんがディスプレイから顔を上げて、「10.00~!」と楽しそうに手を叩く。
振り返って見上げると、戸惑った顔のセシルさんと目があった。
「今日は参加できなくて残念ですけど・・・ロイドさんと二人っきりで楽しんでください」
「やだもう・・・何言ってるのよ、スザクくん!」
「まったねぇ~、スザクく~ん」
顔を真っ赤にして声をあげるセシルさんと、いつも通りのロイドさんの声に送られて、僕はトレーラーを飛び出した。
外の冷たい空気が火照った頬に心地よい。
見上げれば、澄んだ夜空には青白い星がきらきらと瞬いている。
『待ってる人がいるんでしょう?』
――――嘘を、ついてしまった。
本当は待っている人なんていなかったのに。あっさり頷いた自分に、とてもびっくりした。
僕は嘘が嫌いだ。嘘は汚くて、卑怯で、人を簡単に裏切る。
でもさっきのはそういうのじゃなくて・・・なんだか信じたくなってしまったのだ。
どこかで僕を待ってる人がいるような気がして・・・そんな自分の嘘を、自分で信じたくなってしまった。
「クリスマス、かあ」
きっと今頃トレーラーの中ではセシルさんが自慢の手料理を大量にテーブルに並べている頃だろう。
ロイドさんは大好きなプリンを片手に、蛍光色のおにぎりを頬張っているに違いない。
その様子を想像して、思わず一人で小さく吹き出してしまう。
・・・自分の事なんて、どうでもいいじゃないか。
いつでも僕なんかの事を気に掛けてくれるセシルさんに、つまらない心配をかけなくてよかった。
今、僕がここにいて、ランスロットに乗って、色々な人に会う事ができたのも、あの二人のおかげなのだ。
柄じゃないけど、今日ぐらいはキューピッドならぬ、サンタクロースを気取ってみてもいい。
「ロイドさん、セシルさん・・・メリー・クリスマス!」
僕は小さく呟いて、頭上に広がる星空を見上げた。
<07-12-24>
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